PRODUCTIONNOTES プロダクションノート

現代の風潮を捉えたアイデア

『あなたの旅立ち、綴ります』の監督と製作を務めたマーク・ペリントンは、仕事仲間で長年の友人のスチュアート・ロス・フィンクからこの映画の構想を聞いたとき、ずっと描きたいと思ってきたテーマを探究する絶好の機会だと思った。ペリントンはこう振り返る。「フィンクから構想を聞き、彼が、死、家族、過去、アイデンティティーを描こうとしているのを知った。僕もこれらのテーマに強い関心を持っていた。半年後、フィンクは脚本の初稿を持ってきた。ドラマとコメディがうまく合わさっていて、僕が作ってみたいと思っていた映画のトーンだった。そしてフィンクとプロデューサーのアン=マリー・マッケイと僕は、1年半かけて細部まで練り上げ、撮影にこぎつけたんだ」

この映画を着想する前、フィンクは、著名人などの訃報記事が存命中に書かれているという事実を知り、興味を引かれていた。そして、そのような記事を書いているのはどんな人なのだろうと思っていた。「でもすぐに、自分の訃報記事を書くように依頼した人の方に、興味を持つようになった。ハリエット・ローラーというキャラクターは、そこから生まれたんだ」

奇しくも、このフィンクの着想は、現実に起こっている風潮をとらえていた。自分の訃報記事を自分で書きたがる人が、地位や職業を問わず増えていたのだ。そして、訃報記事の作成方法を教える本や特集記事、教室、オンライン講座が、次々と作られていた。Legacy.comという訃報記事がまとめられているウェブサイトによると、この風潮は「究極のセルフィー」、「自作の訃報記事」と呼ばれ、希望者はここ5年で倍増している。よく知られている例では、俳優の故ジェームズ・レブホーンが書いた「本人による、ジムの人生」で、この訃報記事はインターネット現象になった。自分で訃報記事を書く理由は、正確なものを残したい、家族や友人をユーモアで慰めたいなど様々だが、ハリエットのように死んだ後でも、自分の人生を自分で定義づけたいという人もいるだろう。

ハリエットは、完璧を求めるその性格ゆえに一人ぼっちになり、孤独を体験してきた。「彼女の人生は一見問題がないように見える。でも実際は空っぽなんだ。外見と内面がぶつかり合っている。この映画の中で、彼女は意義深い人生とは何なのかを定義づけなければならない」とペリントン監督は語る。

その問いかけは、万国共通であると彼は考える。「周囲の人にどのような影響を与えているかを見るまでは、その人のことってわからないものなんだよ。人っていうのは、いなくならなければ、その人の人生が与えた影響の話をしない。プリンスのことを考えてみてくれ。いなくなって初めてどれだけプリンスのことが好きだったかってわかるんだ。作家にしたって、その人物が作り上げた作品全てを振り返ってみてその人がどれだけ素晴らしい作家だったかっていう話ができる」

理想のキャスティング

シャーリー・マクレーンやアマンダ・セイフライドのレベルの高い俳優が出演していることで、ハリウッドで望ましい注目を集めたと監督は言う。「アマンダもシャーリーも脚本に惹きつけられた。最初に僕の事務所で一緒に脚本を読んだ時、不思議なくらいぴったりきたんだ。その時に、この作品には何か特別なものがあると感じたんだよ」

脚本家のスチュアート・ロス・フィンクは、シャーリー・マクレーンを念頭に置いてハリエット・ローラーの人物像を作り出した。『アパートの鍵貸します』、『愛と追憶の日々』、『チャンス』など、彼のお気に入りの映画に出演しているマクレーンは、ハリエットの独特な性格を具現化している。「多くの人が彼女のファンであるように、僕もずっと彼女のファンだったんだよ」とフィンクは言う。「シャーリーほど嫌な女と脆さとユーモアと共感性を兼ね合わせている女優はほかにいないんだよ。いつの時にも誰よりも一番頭がよくて、さっと辛辣な言葉を発して、絶妙なタイミングで眉を吊り上げて不信感を表現する。彼女がつくりだす人格は、アメリカの映画にはなくてはならないものなんだよ。そしてそれらの人格が映画の後どこに行くか興味があるんだ。僕は、彼女がつくる人格が生き続けるのを見るためにこの作品を書いたんだよ」

ペリントン監督はこの映画の中でマクレーンが演じる人格を、彼女がオスカーを受賞した役に比べる。「彼女は『愛と追憶の日々』に登場したオーロラ・グリーンウェイの25年から30年後みたいなものなんだ。人生の終わりに近づいてどれくらい支配的な女になっているか想像できるだろう」と監督は言う。

ペリントン監督とフィンクは脚本とともに一通の手紙をマクレーンに送り、その中で、その役を演じることができるのはあなたしかいないと伝えた。嬉しいことに、マクレーンはハリエットの強さと決断力にすぐさま惹かれたのであった。「『あなたの旅立ち、綴ります』は、女性はビジネス戦力とはみなされていなかった1930年代に生まれた女性たちの観点から主に書かれているのよ。当時の女性は、成功したかったら、あちこちに自分の権威をちらつかせないとダメだったの。この映画の人物はそれをするのよ。でも同時に面白いの。自分の人生でいろんな人を怒らせてきたっていうのはわかっているんだけど、いい印象を残したい。そして、二人の女性が、以前は目を向けようともしなかったことを明らかにする話でもある。それは、二人が互いを刺激するからわかるようになるのよ。それぞれが自分を知るようになるの」とマクレーンは語る。

マクレーンが出演の契約をした後、ペリントン監督は、アン役としてマクレーンと真正面から対決できる女優を探し始めた。アマンダ・セイフライドにたどり着くにはあまり時間がかからなかったと監督は言う。「彼女に会って15秒でわかったよ。彼女自身がアンにすごく似ていたし、彼女も脚本を気に入ってくれた。そしてシャーリーに会った時もビビッと来るものがあったんだ」

マクレーンがもうすでに本作に献身しているということを知って、自分もこの映画に出演する決断がしやすくなったとセイフライドは言う。「彼女と一緒に仕事ができるなんて夢にも思わなかったわ。私にとっては素晴らしい経験だった。役者自身との私の経験を反映する関係をつくりだす機会はこれまでにはなかったから。シャーリーはキャリアも長く、素晴らしい意見をたくさん持っていて、すごく強い信念を持っている。私はすごくそれを尊敬しているの」

二人の強い女性を描いた物語に参加できることも、セイフライドがこの映画に関わりたいと思ったもう一つの理由であった。「このような機会は滅多にないからすごく惹かれたのよ。フィンクは、自分の存在意義に葛藤している女性の、とてもきれいで感動的で詩的なラブストーリーを書いてくれたの。一方マークはとても熱心で、自分の仕事をちゃんとわかっている。だから、脚本、監督、そして、素晴らしい役者が揃っていて、完璧なセットよね」

セイフライドはさらに語る。「私が演じるアンは、自分が作り出した安全な世界に誰かが入ってくることを恐れているの。訃報記事以上のことを書きたいんだけど、失敗を恐れている。ハリエットは、一緒にこの旅路に出ようと彼女をけしかける。ハリエットは嫌な女の時もあるけど、他の人の可能性をみて、その可能性を活かすように励ますのよ。彼女のおかげでアンは自分にはもっと可能性があるって言うことがわかるの」

ぴったりな楽曲集めの苦労

マーク・ペリントン監督は出演俳優たちとスタッフたちにとても感謝している。特に撮影監督であるエリック・コレツ、製作デザインのリチャード・フーヴァー、衣装デザインのアリックス・ヘスター、編集のジュリア・ウォンを特に称賛している。けれども、一番大変な仕事を担っていたのは、音楽監督のライザ・リチャードソンだったであろうと言う。「この映画にはたくさんの音楽がある。ハリエットはDJになるほどの音楽狂だから、映画の中で音楽は大きな役割を果たす。でもお金の面で厳しい制限があった。だから、ライザは、少ないお金でたくさんの曲を見つけなければいけなかったんだ。映画の中で使った曲のほとんどは、ビッグバンドからロック、そしてヒップホップまであらゆるジャンルで、無名の大学ラジオ局で流しているような曲だよ」

そこからできたサウンドトラックは、ザ・リグレッティド(The Regretted)、ブラッド(Blood)、ウィッチ(Witch)、アムネスティ(Amnesty)、レイディ・ラム(Lady Lamb)などのちょっと変わっていて、あまり知られていないアーティストでいっぱいになり、ハリエットの永年のお気に入りであるバンド、ザ・キンクス(The Kinks)も敬意を込めて入れられている。「ほとんどが知られていないバンドだけど、それでいいのさ。いろんな曲とネイサン・デヴィッドの音楽との組み合わせがとてもいい感じで映画の中を流れていくんだ。音楽を愛する純粋な喜びをかきたてるんだよ」

ハリエットは、自分の音楽を世間と分かち合うことで、これまでに自分が閉ざしていた部分を取り戻すことができる。ペリントン監督はそれについてこう説明する。「ある時点で、ハリエットは音楽自体、そして、音楽を集めること、そして音楽を楽しむことから自分を切り離してしまったんだ。かつては彼女の人生の大切な一部分であったことが、消えてしまった。彼女は不幸にぶつかり、音楽への喜びを失ってしまったんだよ。そして同時に、デジタル化の到来とアナログの死が重なってレコード屋が消え始め、彼女のお気に入りのDJはコンピューターやアルゴリズムにとってかわってしまった」

アンとハリエットは、音楽という方法を通してさらに絆を深める。「アンもレコードを集めている。そしてアンがハリエットをラジオ局に向かわせるんだよ」